花の真寒泉(各地で見た清水の名所)

文政六年(1823年)真澄70歳 


秋田久保田の笹ノ屋で新年を迎え、古四王神社に参拝します。(笹の屋日記) 

このとき、真澄はこれまで訪れた清水について記録しました。 


高清水寒泉

=真澄記= 
この高清水、別名行人清水とも言う。 
天正の頃、下野も国太田原の城主、渋谷淡路守重虎が出家して宥月法師と名乗り、心のままに国々をさすらった。 
出羽の国羽黒・湯殿の嶽にも分け上り、更にはこの秋田路に来て、古四王に詣でて、この高清水で身を清めた。

=AKOmovie記= 

秋田市寺内の高清水公園は、733年(天平5年)大和朝廷が最北の守りとして築いた秋田城の跡で、真澄の墓がある古四王神社も近くにあります。 地元で今も霊泉として大切にされています。


岩清水(男鹿の秋風)

=真澄記= 
寒風山の麓に岩清水という面白い所があると聞いて、連れと一緒にでかけた。 
石畳のようなところに清らかな水が流れている。 
岸に岩がある。この岩の割れ目に八蝋蛇(みつおろち)という蛇が棲むと言う。 
夏には、その蛇を見たという村人もあるという。


桂清水
=真澄記= 
出羽の国秋田の郡南比内の庄前田村の坤(ひつじさる)の方角に森がある。その森の中には観世音を据えて祀っている。 
また桂のうつほ木があって、このうつほ木の中に板屋楓(かえで)の大木があり、その元から湧き出ている。これを桂清水と言う。 
桂清水は陸奥の国の浄法寺の桂清水の他にも、この前田村に近い笹館にも桂清水がある。 
またみちのく南南部にも桂清水があり、そこの田植え歌に「桂清水は恋の水四十男が若くなる」と歌われている。

みたらし清水
=真澄記= 
出羽の国秋田の郡南比内の庄の大子内(おほしない)村の八幡の社の大杉のもとにある。 
この水、御社をめぐって大池となって、その末は二筋に分かれて、みな田の面に流れている。

小和清水
=真澄記= 
秋田五城目、森山の麓の路傍らに大杉が生えている。 
この杉は根が二股に分かれている。いにしえより、空海上人が箸をさしたところから生じたという伝説がある。この杉を小和杉が言う。 
この杉の根から湧き出でる清水を「小和清水」と言う。

はたふく清水
=真澄記= 
雄勝郡院内の山に、「幡吹(はたふく)清水」がある。 
毎年九月九日は東鳥海の餅祭りがあって、人が大勢この清水のもとに集う。 
茶店を作って、餅や酒を売る。 
「幡吹(はたふく)」とはいかなる言葉であろうか。

殿清水
=真澄記= 
雄勝郡須川(酸川)村に、「殿清水」がある。杉の根から湧き出るので、「杉清水」とも言う。 
ここは昔国の守りの所であり、また、国守が江戸との往来で通るところだ。 
この村の染物師に渋谷善左衛門という家があり、国守往来の宿であった。 
この家に伝わる文献によれば、元禄年間に大石内蔵之助も休んだとある。

大杉清水
=真澄記= 
雄勝郡松岡郡の万福院の後ろにある。 
この杉は七抱えもある中空の杉だ。 
この木の内に白蛇が棲んでいると言う。したがって、この杉には鳥が巣を作ることがない。 
これを、松岡の七不思議の一つとしている。

比良寒泉
=真澄記= 
雄勝郡松岡郡桑箇崎枝村の小比内の澤にある。 
昔は家が沢山あって栄えた所だという。 
立石の澤、大柳澤など、いにしえの物語のある場所がある。

御返事(おっぺち)清水
=真澄記= 
雄勝郡御返事(おっぺち)にある。 
御返事(おっぺち)は蝦夷の言葉で少川(ホンペチ)のことで、小川を指す。 
良い清水で、そこを清水の前と言って、田畑の字となっている。

小町の清水

=真澄記= 
山本郡(昔の山本郡は今で言う仙北郡である。今の山本郡は北の能代あたりを言う。)上岩河の荘の小町村にある。 
この町に岩川が流れていて、川岸に寒泉が湧き、「小町の泉」と言う。

昔、小野小町が老いて雄勝の郡小野の八十嶋にあった。 
河北の停代の南の奥、日高山に連なる坊場(ぼんじょう)の大日如来を詣でようと、ここまで来たが、老いて身が苦しくなった。 ここで手を洗い清め、ここまでとしたという語り伝えがある。


太郎八清水
=真澄記= 

昔、ここに駒形庄松岡の金峰山神宮寺曼福院の塔があって、塔ケ澤と呼んでいた。 
この山澤に太郎八清水がある。太郎八と言う者が見つけた井戸かと思ったが、そうではなかった。 
足が腫れる病気を「たろはち」と言う。この寒泉は毒水で、飲んだものは「たろはち」病となると言う。

石神清水
=真澄記= 

身に瘡が出た人は、篠(ささ)の葉で舟形を作って、それに炒豆を盛ってこの石神清水に手向ければ、その瘡は癒されると言う。

粟吹しみづ
=真澄記= 

乙女はその花を見て「その山吹はどこのあるか」と聞く。「道がわかれば自分も折りに行きたいものだ」
山吹を「あわぶく」と言い、清水を「しず」と言う方言は面白い。 
万葉集にも「やまぶきのたちよそひたる山清水くみにゆかめど道のしらなく」とある。